綿菓子と唐辛子


土曜日は、ヒメの誕生日だった。

だけど、今日のこの日のために、ヒメは姿を消しているわけで。




「あの子、ここにいるだけで辛いのよ。色々と、トラウマになってしまって」

「…」

「わたしの持病さえなければ、一緒に東京に行ったんだけど。でも、今住んでいるアパートがあなたと同じって聞いて、少し安心したわ」


…ヒメのお母さんとの話では、これまでのヒメのこと、引越しを決めた時のこと、引越ししたけれど、また同じような事件に巻き込まれないか心配しているということを聞いた。


優しく笑う横顔。

その笑顔の裏にも、きっとたくさんの苦労があったのだろうと推測できた。



「今回の裁判で下された判決は、懲役8年の実刑判決。被告がやってきたことが酷かったからわりと長期間だけど…」

「…」

「でも、時間じゃ解決できないことだってあるのよね。それがわたしは、怖かったの」



……さっきまでずっと笑っていたお母さんから、初めて聞いた弱音。


今日の裁判がどうだったとか、その判決がどうなのかとか、そういうのは専門家じゃないから分からない。

…でも、この人とヒメが抱えていることは、この先もずっと消えないことだということは身にしみて感じた。








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