綿菓子と唐辛子
…次の日。
「…それじゃね、お母さん」
俺たちは、東京行きの新幹線に乗るために、駅まで来ていた。
たくさんの人たちが行き交う中、俺たちは3人で端の方で集まって、言葉を交わす。
「…うん。また、母さんも行くから。元気で過ごしているんだよ」
「うん、ありがとう。お母さんも体調には引き続き気をつけて」
ヒメは、またいつもの日常に帰ることを決めた。
お母さんと離れていることが、寂しくないわけがないことは容易に想像がつく。だけど、きっとヒメは、これからも俺が住んでいる街で新しい人生を歩もうとしているのだ。
…自分の生まれた故郷ではなく。
「…ナツくん。娘を、姫芽をよろしくね」
…ヒメが、地元を離れて、俺たちのところにくることを選んだのであれば。
それをしっかりと守っていけるのは、俺だけだ。
「はい、任せてください。ヒメは俺が必ず守ります」
「ふふ、ありがとう」
優しい顔で笑うヒメのお母さんは、ふわふわと手のひらを振って、最後まで俺たちを見送ってくれていた。