綿菓子と唐辛子
——東京までは、行きよりも短く感じた。
それは、俺の精神状態の関係なのか、そうじゃないのか分からないけど。
でも、思ったよりも、俺が住んでいた場所と、ヒメが住んでいた場所は、近く感じた。
『まもなく、東京、東京』
「…」
俺は、隣で眠っているヒメを見つめる。
肩に寄りかかって、すやすやと眠っていたヒメは、なんだか落ち着いた表情をしていた。
「…ヒメ。東京着くぞ。起きろ」
ほっぺたをつついて、髪を撫でると、その長い睫毛が揺れて、黒目がちの目が開く。
「…んん、着いたの…?」
「次だよ。荷物とって準備しよ」
「んん…」
のっそりと起き上がって、下に置いていたカバンを取り出すヒメ。
俺も、上の棚からボストンバッグをとって、下に置いた。
まだ、ぼーっとしているヒメは、疲れたのか意識が朦朧としていて。
今日は、早めに寝たほうがいいなと、自分のことのように考える。
「…帰ってきたんだ、東京」
「あぁ、これからまた電車にしばらく乗るけどな」
「うん…」
少しは、この街がヒメにとって落ち着く場所になってくれればいい。