綿菓子と唐辛子



部屋は、沈黙で溢れかえった。

ここから空気がどうこう直るもんじゃないということは分かる。


…けど、ほんとに、ちょっと整理がつかなくて。


分かるのは、顔を赤くして下を向いているヒメ。

俺とずっと一緒にいたいというヒメ。


そして、裾を持って、離してくれないヒメ。




「…………ッ」




これが、どういう意味なのかというくらいは、俺だって想像がつくよ。


ただ、これからも一緒にいたいという意味の「一緒にいたい」なのであれば、きっとヒメはこんなに赤くはならないだろう。

俺を引き止めることだってしないだろう。




…そして何より、熱くなっている俺の身体と、これでもかと運動している心臓がうるさくて。


もう、なにも誤魔化しは効かない気がしたんだ。




「…俺だって、ヒメと…ずっと一緒にいたいに決まってんじゃん…」

「…」

「ずっと、そう思ってたよ…」



けど、自信がなかったから。

大切にしたいという想いももちろんあったけど、何より自信がなかった。


ヒメのことを、本当にこれからも俺が幸せにできるのか、とか。

ヒメ自身も、本当に心から俺がいいと思ってくれているのか、とか。


…だからこそ、何もしないで、とにかく一定の距離をとって、大切にしてきたのに。



きゅっと、すぐそばにある手を握った。

クッと上に向けると、静かにあらわれる、当時の痕。


「…やだ、汚いから見ないで…」

「汚くねーよ」



ヒメが、怖がらないように、今までずっと、大切に大切に距離をとってきた。







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