綿菓子と唐辛子
「…ねぇ、ナツ」
「あ?」
ふたり並んで、夕焼けに照らされていると、隣で南がぽつりと呟く。
「…かわいいね、ヒメ。このクローバーさ、ナツに渡すんだって、一生懸命探してたんだよ」
「…」
…南の横顔を見た。南も俺の方を見ていた。
持っていた辞書に、自然と力が入る。
この辞書の中に挟まれたクローバーは、俺のためにヒメが探してきてくれたもの。俺に渡すために、一生懸命見つけてくれたもの。
「私にはね、探しながら、らしくないのにこんなことしてナツ引かないかな…ってずっと言ってたの。だからね、ナツがもらってくれた時は本当に嬉しそうだったよ」
「……」
…ヒメが言いそうなことだ。
『らしくないから』なんて、俺に会ってからもしょっちゅう言ってる。
なにが、『らしくない』んだ?
そんなにあいつが神経質になるほど女捨ててるわけでもないし、俺には普通に可愛い女の子に見えるけど。
その言葉の意味が、まるで分からない。ヒメのことは、知ってそうで、なにも知らない。