プラチナブルーの夏
11.
『全然かっこえーとかじゃないんやけど。

あと、人見知りするタイプやし無愛想に見えるかも知れへんけど、

めっちゃいいヤツなんよほんと^^』
 
約束の時間、家に向かう道の途中で入ったリツコからのメールを読みながら、あたしは一人、クスリと笑った。

恋や彼氏という存在は、自分にとって縁のないものだと思っていたけれど、

リツコのこんな文章を見ると(好きな人がいるっていうのは、本当に幸せな事なんだろうな)と、素直に思えた。
 
白いキャミワンから伸びた剥き出しの腕が、ジリジリと焦げだすように熱い。
 
お土産に持って来たシューアイスが溶けてしまわないうちにと、携帯を閉じたあたしは急いで坂道を駆け上った。

たぶん、こんな気持ちと恋は似ているんだと思う。

『早くあの笑顔が見たい』そう思いながら駆け出す、こんな気持ち。

 
アパートの階段をカンカン鳴らして上っていくと、すでにリツコは玄関のドアを開け、満面のチェシャ・スマイルでこっちを見ていた。

「いらっしゃい!待ってたで♪」

「お邪魔しまーす!あっ、これお土産」

「えぇ?えーのにそんなんーでも嬉しいわぁ。ありがとなぁ~」

ドキドキしながら部屋に入ると、先導するリツコの小さな背中越しに、ちらと姿が見えた。
 
テレビに向かって座っている、想像していたよりも広い背中。

「ユウスケ~、ミズキがお土産持って来てくれたわ。三人で食べよ、食べよ!」

「あぁ…」
 
低く、しゃがれた声。茶色い髪の毛。肌は、日焼けで真っ黒だ。
 
その場に立って黙ったままのあたしを、一瞬チラッと見上げた。慌てて

「初めまして、お邪魔します」

と、あたしが会釈をしたら、

「こんちは」
 
ボソッと答えた。

「わぁ、シューアイスやん!これウチらの大好物だわ~ありがとな、ミズキ。あ、そこらに適当に座っててや」

「あ、うん。じゃあ」
 
リツコが台所に引き返して行くと、再び彼氏はテレビを振り向き、続きを観ていた。
 
自慢にもならないけれど、人見知りならあたしも負けない。
 
リツコが再び部屋に戻って来るまでの間、なんとなく気まずい空気の中で黙って座っていた。

かろうじて、テレビの音に救われながら。
 
ようやくリツコがシューアイスと麦茶を運んで部屋に戻って来、ホッとした。

「ユウスケ、そこのテーブル広げてや」

「ん」

小さな折りたたみテーブルを囲みながら三人で食べた。

「わぁ、これ中身ストロベリーアイスやん!めっちゃおいしい」

「バニラのもあるよ」

「ほんま?あっ、袋に書いてあったんやー気づかんかった。ミズキのは?」

「あたしのもストロベリー」

「ユウスケのは?」

「バニラ」
 
左右に座っているあたし達を、交互に見ながら話しかけるリツコ。

「ユウスケ、ストロベリーのがよかった?」
 
リツコが話しかけてる時しか、彼氏の顔、なんとなく見れない。

「いや、どっちでも。ごちそうさん。うまかった」

彼氏はそう言って、あたしの顔を見ながら初めて笑いかけてくれた。

「ストロベリーとバニラ、三個ずつあるんで、また食べてください」
 
急に緊張が解けたあたしも、やっと笑顔を返せた。
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