プラチナブルーの夏
「…スレんなよ、ミズキ」
 
……え?

「…何に対して?」
 
僅かにすき間が出来る唇と唇。
 
そのすき間から、あたしは尋ねた。

「…人生で起こるすべての出来事に対して。

人生で出会うすべての人に対して。

…いゃー俺っていい事言うよなぁ」
 
またそうやって、ふざけてみせる。
 
憎たらしくて愛し過ぎるその顔と体に、

さっきからずっとあたしの影が重なっている。

「あのさ、病院にいたのって、お母さんなん
だよな?」
 
トモロウはそう言いながらあたしの背中を

片手で引きよせた。
 
重なっていたあたしの影は、本物の体温と鼓動と厚みに

姿を変え、本物の体温と鼓動とその厚みに抱きしめられた。

「……うん……そうだよ」
 
ーーやっぱり、あたしはあの女を母親だなんて認めたくはない。
 
あの女との関係を口に出す時は、どうしてもためらってしまう。

「どうして喧嘩したの?どんな人なの?」

「……………」

トモロウに出会う以前の記憶を蘇らせるのは

正直ものすごく怖かった。
 
けれども、その反面あたしはその記憶を全て

誰かに聞いて欲しいとずっと願っていたような気もした。
 
トモロウの髪をなでて、トモロウに髪をなでられて。
 
真っ暗闇の螺旋階段を、一段一段確かめながら降りていくように、

少しずつあたしは記憶を辿って行った。
< 113 / 118 >

この作品をシェア

pagetop