プラチナブルーの夏
マニキュアを塗る手が、思わず止まる。

(男遊び…?)耳を、疑った。
 
それが中学生の娘に向かって母親が言う言葉だろうか?

「何それ…?…頭、おかしいんじゃないの?」
 
沸々と込み上げて来る怒りに、声が震えた。

今さら母親に愛してほしいなんて、あたしは微塵も思ってない。

それでも…いくらなんでも、あんまりじゃないか。

「なんなの?その言い方。あんた、誰に養ってもらってるのか、わかってるの?」
 

ドン…ドン…ドン…!
 

こめかみや、みぞおちの辺りで、鈍く太鼓の音が響く。

 
怒りが、カラダ中の血液を沸騰させ、あたしの理性を吹き飛ばした。

「そんなにあたしがウザいなら育てなきゃ良かっただろ!

赤ん坊のうちにさっさと首でも絞めておけば良かっただろ!!」
 
立ち上がった勢いで、マニキュアの瓶がカツンと小さな音を立て、床に転がった。
 
片手だけラメ入りピンクの爪のまま、あたしはいつの間にか母親の襟首に掴みかかっていた。

「…ナマイキな口叩くんなら、早く自立出来るようになんなさい。

…お母さんももう早く楽になりたいのよ…疲れてるのよ」
 

母親はすぐ目の前のあたしを平然と、凍てつくような視線で見つめながら呟いた。
 

………悔しい………。
 

あたしは何も言い返す事が出来ず、襟首を掴んだ手の力を魂が抜け落ちていくように、だらりとゆるめた。
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