プラチナブルーの夏
いつもの階段を駆け上がり、ドアの前に立つ。

キラキラピンクの指先で、そっと控えめにチャイムを押した。

『ピンッコンッ!』
 
どんなに静かに押してもこのチャイムは、いつもびっくりするほど音が大きい。
 
数秒のちに、リツコがはいは~い!と言いながらドアを開けた。

「いらっしゃ~…って!ミズキ、一体どうしたんよその顔!!?」
 
開口一番、オママゴトのお母さんみたいなピラピラレースのエプロンを着けたリツコは言い、目を見開いた。

「え?そんなヒドい?あたしの顔……」
 
慌てて両手で顔を包んだ。うわ…。何この感触……。
 
きっと汗と涙を散々流したせいで、メイクもドロドロに解けてしまっているのだろう。

「あーあー髪もボサボサやん!ま、とりあえず早よ部屋ん中入り」

「うん…」
 
サンダルを脱ごうとしたその時。
 
あたしの目に入ったのは、見覚えのある大きな赤いスニーカー。

そして、微かに聞こえて来るお風呂場からのシャワーの音…。

「リツコ。もしかしてもうユウスケさん来てるの?」
 
あたし。
 
ものすごい不覚……。

ユウスケさんがこんな早い時間から来てると思ってなかった。
 
台所に立っているリツコは、包丁をトントン鳴らして夕食の支度をしながら、

あたしの問いかけに背中で答えた。

「あーうん。今日は仕事早めに終わったらしくてな。久々に泊まってもいく

みたいやしな」

「そう……」
 
あたしの、バカ。
 
超ド級の、アホマヌケ。

せっかくの二人の時間を、しかも久々のお泊りの日に邪魔しに来ちゃったなんて。

「ごめんリツコ。それはさすがに申し訳ないから、やっぱり帰るね?ほんとにごめん!」
 
早口でそう言って、玄関に向かうとリツコは、

「なんよそれ~!家にも帰りたくないって言ってたやん。

もうミズキの分のおかずも作ってるから、黙ってそこに座っとき!」
 
ピラピラエプロンの可愛いチェシャ猫はそう言って、クチャッと鼻に皺を寄せ笑った。
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