プラチナブルーの夏
学校は、死ぬほど退屈な場所でしかなかったけれど、

バイトは楽しかった。

学校から家までのちょうど中間辺りにある駅を降り、

大きなビルの並ぶ道を反れた小道に入った所にある、とても小ぢんまりとした珈琲店。
 

店長はスキンヘッドで熊のような髭を生やした寡黙な人だ。

最初は少し戸惑ったけれど一言、二言、少しずつ話をしてみると、

とても穏やかな優しい人だと分かった。
 
店員は私の他には店長の奥さんだけで、お客はほとんどが常連客のオジさんばかりだった。

ここなら、万が一にもクラスメートが立ち寄りはしないだろうという

理由で始めたバイト先だが、今ではここにいる時が一番ホッとできる。

「お疲れさん」
 
バイト上がりの時に、いつも店長が淹れてくれるアイスコーヒーは、

体中に染み込んで来る。

「おいしいです」
 
あたしが言うと

「これが商売だからな」
 
そうボソリとぶっきら棒に答える店長を奥さんは

「またまたぁ。照れちゃってるのよ、この人。

ミズキちゃんみたいな可愛い子にホメられて」
 
きゃらきゃらと、屈託なく笑いながら店長をからかう。

奥さんは、とにかくいつでも笑顔の人で

『こんな人がお母さんだったらいいのに』と、あたしは何度も思ったことがある。

それから

『いつかはあたしも、誰かとこんな夫婦になれるのだろうか』とも。
 
けれどもその思いはいつも、一瞬のうちに否定した。

『男の人なんて、あたしが好きになれるわけがないんだーーー』
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