プラチナブルーの夏
胸と、蹴られた顔の痛みで、

あたしは恐ろしさのあまり身動きができなくなっていた。

生温い液体が、鼻から流れてきているのがわかったけれど

それすらどうでもいいことの様に思えた。

 
どのくらいの時間、そうしていたのか。

 
いつの間にか「何者か」は、道に倒れたままのあたしの横にやって来ていた。

「…大丈夫…?立てる?」
 
声が近くに聞こえた。しゃがみ込んでいるのか。

「ごめん…捕まえられなかった…俺、足遅いんだよな…ほんとごめん…」
 
ぼうっとした意識の中で、ふと思う。
 
この声は、確かどこかで聞いた事がある…

そう…確かに……
 
あたしは恐る恐る、顔を覆っている両手をはずしてみた。

「あ…」

「…あれっ…!?」

目を見開いて驚く、その顔は。
 
あの、母親の病院に行った日に出会った、居眠りチャリ運転の男ーートモロウだった。

「……えっ…と……」

「…てか、ちょっと…喋らないで」
 
顔よく見せて、と言いながらトモロウはポケットから100円ライターを取り出した。
 
小さな炎に照らされる、あたしの顔。
 
どんな感じなの?
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