プラチナブルーの夏
しかし、さすがの母親も気にかけずにはいられなかったらしい。

病室に入ったあたしを見て開口一番

「…何、それ。どうしたの?」
 
と目を丸くして聞いて来た。

「チャリで転んだの」
 
嘘ではない。省略し過ぎでは、あるが。

「転んだだけで、そんなになるの?」

「…その後、知らない人に蹴られたの」

「蹴られた!?」
 
キンと響く声。相部屋の患者が一斉にこっちを見たーーような気がした。

あたしが来てすぐにあたしの傷を隠すように母親がベッドのカーテンを閉めていたから、

本当のところはよくわからないけれど。

「大きな声、出さないでよ」

「警察は?」

「呼んでない」

「なんで?」

「……」

 …なんだか面倒になってきた。

「…とりあえず洗濯物、出して。洗って来るから」
 
母親は、まだ何か言いたげに口を開きかけたが、

とりあえず洗濯物が入っている袋と小銭入れを黙ってあたしに渡した。
 
バイト先からいったん家に戻って、ジーパンに着替えたので、

全ての傷を母親に見せずに済んだのは良かったかも知れない。

砂利道で倒され暴れまくったのだ、無理もない。

割と派手な擦り傷が、ジーパンの下で両足とも包帯ぐるぐる巻きになっている。
 
消毒のせいもあってジンジンと痛む。痣も、あちこちに出来ていた。
 

ざざっと母親の洗濯物を病院内のコインランドリーに放り込み、回した。

そして、もちろん気は進まなかったけれど、再び病室に戻った。
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