プラチナブルーの夏
「あんた、お母さんの退院日知ってる?」
 
 戻るなり母親は自分の手荷物を整理しながらあたしに尋ねた。

「知ってるよ。明日でしょ」
 
 ああ、言った側から憂鬱になって来た。

「あら、覚えてたのね。ちゃんと菓子折り持って来てね」

「え?」

「短い間だったけど、同室の皆さんにお礼しないといけないから。

朝十時には来るようにしてちょうだい」

「…………」
 
 なんとなく、嫌な感じがした。その、「当然」とでもいう言い方に。
 
 娘が母親の退院日に来ないなんて、そりゃおかしいかも知れない。

 お世話になった同室の人達に、菓子折りの一つや二つ、買うのも常識かも知れない。けれど。
 
 そこにはあたしの事情や意思が何も、ない。

 いや。「ない事にされている」気がする。
 
 だいたい、あたしの傷を見て母親は驚きはしたけれど、

トモロウや店長夫妻のような気遣いはまるっきりしていない。
 
 そんなことをこの人に、ちょっとでも期待していたのだろうか、あたしは?
 
 眼帯で隠れた左目の奥が、ふいに熱を持ってカッと痛んだ。
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