プラチナブルーの夏
8.
今思い出しても、リツコと過ごしたあの夏は、最高に楽しかった。
 
地元で一番派手にやる花火大会にも、二人で行った。
 
お祭りの屋台で食べたマズイお好み焼きですら、リツコとだったら楽しかった。

「今のお好み、絶対ありえんわ!口直し、しよしよ!!」
 
いかにもカラダに悪そうな、鮮やかな緑色のシロップがかかった、メロン味のかき氷をリツコは選び、

あたしはイチゴ味を選んで、緑と赤にそれぞれ染まった舌を見せ合いながら、シャクシャクとかき混ぜ、食べ歩いた。

「リツコって、つき合いいいよね」

メインの花火は、とっくにいい場所を大勢の人々が占領してたから、遠くから眺める事にして、

ドン!パラララ……
 
という音や歓声を、主に耳で楽しんだ。

「え?つき合いいいて?どゆ事??」

ドン!パラララ……

「だって、彼氏いるじゃん。花火大会なんかは大抵、カップルで行くものだし」

「あ~」
 
そうかもな、とリツコが笑う。

ドン!ドン!パラララ…パラララ……

「うちの彼氏な、あ、ユウスケっていうんやけど。普通のリーマンなんかと違うから、夏休みなんて数日しかないんよ」

「ふぅん…お仕事ならしょうがないけど、やっぱり寂しいね」

うわぁーーー!!っと、花火見物の人々が突然、さっきまでとはまた違う、盛り上がった声を一斉に上げた。

「なんやろな…ナイアガラかなんか、やってんかな」
 
あれってむっちゃキレイやんな。大好きやわ。と、リツコはつぶやき、

「そりゃあ寂しいわ!でもな、明日は久しぶりに会えるんよ」

顔をクチャクチャにして、嬉しそうに笑った。

「ほんと?よかったね!」

ドンドン!ドンドン!ドンドン!パラララッパラララッパラララッ………
 
花火はすでに、クライマックスの連続打ち上げ。

引き上げて来る人波に飲み込まれないように、あたし達は少し早めにその場から離れた。
 

かき氷もすっかり溶けて、紙コップがグンニャリと柔らかく歪んでいる。

底に残った僅かの薄いイチゴ色が、透明でキレイだった。

「あ!そうや!」

あたしと同じく、紙コップの最後に残った薄いシロップを飲み干したリツコが、突然叫んだ。

「なに?」

「明日、ミズキまた家に来ーへん?ユウスケに紹介したいわ!」

「でも、せっかく久しぶりに会えるんでしょ?あたしがいたらジャマになっちゃうよ」

あたしの言葉に構わず、リツコは続けた。

「そんな事ないわぁ~ユウスケにもな、『やっと信頼できる友達見つけたわ』っていつも言ってるんよ!会わせたいわ」

あたしはこの時のリツコの誘いを、やっぱり断っておけば良かったと、散々後悔する事になる。

しかし、リツコの屈託のないいつものチェシャ・スマイルと、今まで一度も経験した事がなかった『友達の彼氏を紹介してもらう』という行為、

そして、何よりもリツコが当然のように言ってくれた『信頼できる友達』という言葉に、大きな喜びを感じてしまった。
 
もっともっと、リツコと仲良しになりたかったから。

たった一人の大切な、初めての友達だったから。

「それじゃあ明日、会わせてね。リツコの彼氏に」

嬉しくてたまらなくて、あたしはそう答えてしまったんだ。
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