プラチナブルーの夏
9.
そして翌日。
なんだか緊張していたあたしは、夏休みだというのに、学校に行く日よりもかなりの早起きをしてしまった。
うっすらと瑞々しく、朝が色づいて来る時間。
とっくに目を覚ましている蝉達の声が、窓の外から競い合うように聞こえて来る。
あたしは鏡の前に立ち、リツコと、リツコの彼氏に会いに行く為の服を、取っ替え引っ替え選んでいた。
そんな事、しなくたって別にいいのに。
遠足当日の朝のコドモみたいに、あたしはワクワクドキドキ、浮かれていた。その時。
はっと背後に気配を感じて振り向いた。
「…お母さん…」
昨夜も遅くに仕事から帰って来たはずの母親が、少し蒼白い顔をしたまま、部屋のドアに凭れるようにして立っていた。
「何…?なんでこんな時間に起きてるの?」
あたしは珍しく、自分から母親に言葉をかけた。浮かれ気分で魔がさした、ちょっとした笑顔すら浮かべて。
すると母親は、無表情のまま
「…昨夜、しつこい客がいて…飲み過ぎたから、気分が悪いのよ」
と、言った。久しぶりに見た母親はいつの間にか、長かった髪を肩までに短く切っていた。
「あんたがバタバタうるさくて、目が覚めちゃったのよ。…デートもいいけど、宿題もちゃんとしなさいよ」
「……………」
「それからね、いくらカラダがませてるからって、頼むから妊娠なんかしないでちょうだいね」
あたしの返事も待たずに母親はそう言い残して、よろりと踵を返し、自分の部屋へと戻っていった。
『あぁ。この人は、あたしの事なんて、ほんとにちっとも愛してなんかいないんだな』
小さな頃から薄々、わかってはいたけれど。
あたしは母親の言葉を聞いて、改めて強くそれを実感してしまった。けれども、それはお互い様なのだ。
あたしだって母親の事なんて、少しも愛していないのだから。
妊娠、か。
あたしは今まで妊娠どころか、男の子を好きになったことさえない。
十四歳になった今の今まで、たったの一人も。
男の子達にとってのあたしは、いつまで経っても『オッパイちゃん』でしかないんだから。
きっとあたしの内側を知りたい男の子なんて、どこにもいないんだから。
あたしはすっかり意気消沈して、鏡の前にへなへなと座り込んでしまった。
今の自分を素のままで、自由に解放できる唯一のココロの支えは、やっぱりリツコ一人だけだ。
そんなリツコの大切な彼氏を、紹介してもらうんだもの。
リツコにとっても恥ずかしくない、『信頼できる友達』としてリツコの彼氏の目に映るような、あたしで会いたい。
「…水色と白のキャミ、どっちにしようかな…」
気を取り直したあたしは、再び鏡の前で洋服をあれこれと選び始めた。
なんだか緊張していたあたしは、夏休みだというのに、学校に行く日よりもかなりの早起きをしてしまった。
うっすらと瑞々しく、朝が色づいて来る時間。
とっくに目を覚ましている蝉達の声が、窓の外から競い合うように聞こえて来る。
あたしは鏡の前に立ち、リツコと、リツコの彼氏に会いに行く為の服を、取っ替え引っ替え選んでいた。
そんな事、しなくたって別にいいのに。
遠足当日の朝のコドモみたいに、あたしはワクワクドキドキ、浮かれていた。その時。
はっと背後に気配を感じて振り向いた。
「…お母さん…」
昨夜も遅くに仕事から帰って来たはずの母親が、少し蒼白い顔をしたまま、部屋のドアに凭れるようにして立っていた。
「何…?なんでこんな時間に起きてるの?」
あたしは珍しく、自分から母親に言葉をかけた。浮かれ気分で魔がさした、ちょっとした笑顔すら浮かべて。
すると母親は、無表情のまま
「…昨夜、しつこい客がいて…飲み過ぎたから、気分が悪いのよ」
と、言った。久しぶりに見た母親はいつの間にか、長かった髪を肩までに短く切っていた。
「あんたがバタバタうるさくて、目が覚めちゃったのよ。…デートもいいけど、宿題もちゃんとしなさいよ」
「……………」
「それからね、いくらカラダがませてるからって、頼むから妊娠なんかしないでちょうだいね」
あたしの返事も待たずに母親はそう言い残して、よろりと踵を返し、自分の部屋へと戻っていった。
『あぁ。この人は、あたしの事なんて、ほんとにちっとも愛してなんかいないんだな』
小さな頃から薄々、わかってはいたけれど。
あたしは母親の言葉を聞いて、改めて強くそれを実感してしまった。けれども、それはお互い様なのだ。
あたしだって母親の事なんて、少しも愛していないのだから。
妊娠、か。
あたしは今まで妊娠どころか、男の子を好きになったことさえない。
十四歳になった今の今まで、たったの一人も。
男の子達にとってのあたしは、いつまで経っても『オッパイちゃん』でしかないんだから。
きっとあたしの内側を知りたい男の子なんて、どこにもいないんだから。
あたしはすっかり意気消沈して、鏡の前にへなへなと座り込んでしまった。
今の自分を素のままで、自由に解放できる唯一のココロの支えは、やっぱりリツコ一人だけだ。
そんなリツコの大切な彼氏を、紹介してもらうんだもの。
リツコにとっても恥ずかしくない、『信頼できる友達』としてリツコの彼氏の目に映るような、あたしで会いたい。
「…水色と白のキャミ、どっちにしようかな…」
気を取り直したあたしは、再び鏡の前で洋服をあれこれと選び始めた。