アドラーキャット
フロイト



文武両道を掲げるうちの学校はそこそこ県内でも偏差値が高い。

難関大学を目指してる人がほとんどで、部活に入らない人もそこそこ多い。

そんな中でも部活に入っている人もそこそこ多い。

つまり、うちの学校はそこそこなんだ。


全国大会毎年出場なんていう目標を掲げることはないが、サボったりはしないくらいには真面目にやっている。

偏差値も、県内一位なんて言われているけど全国的に見たらホントに普通なくらい。



「バレーボール部‼週五で活動しています‼」

そのそこそこ普通な高校の部活に入って、今必死で新入生を勧誘しているのが私、瑞希。
高校二年生、バレーボール部所属。

とりあえず、見学希望用紙に名前さえたくさん書いてもらえれば先輩からのお小言も少なくて済む。

「名前書くだけ!!!!名前書くだけの簡単なお仕事どうですか!!!!」

「瑞希それバイトの勧誘だよ。」

友達がははっと笑って通り過ぎていった。
あれが人気の弓道部の余裕ってやつか。
くそぅ。

「ねぇ、そこの君、名前書かない!?」

男子バレー部も女子バレー部も練習は別々だが名目上一緒に勧誘することになっているので私は男女構わず声をかけている。

俯きがちの気が弱そうな子はこっちが押せ押せで勧誘すれば流されてくれるからやりやすい。
なかなか姑息なことを考えながら私は声をかけまわった。

「名前書いてくださいお願いします‼」


猫背で前髪が目にかかっている子に声をかけた。
顔が見えないし、おまけに身体の線も細いので男の子なのか女の子なのか分からなかった。

ふっと頭を上げたのでようやく相手の顔が見えた。

つり上がった猫目で、なかなか美人な、男の子だった。
これで猫背じゃなくて前髪も切ればきっとモテるのに、もったいないなぁ、と思った。


「…………。」


そして無言だ。
全く、一言も話してくれない。


目は合わせてきてくれるから無視しているわけではなさそうだ。


「えーと………名前、お願いします。」

「……。」

紙を差し出せば無言で受け取ってくれた。

一応、名前は書いてくれるみたいだ。

ただ、この愛想のなさと根暗っぽさはなんなのだろう。
この子、笑えばきっと美人さんだし、愛想良くした方が得なのにな。

『荻野目 駿』

紙には小さな字でそう書いてあった。

「おぎのめ?」

そう苗字の読み方を聞けばこくんと頷いてくれた。
声は出さないが無視するわけでもない。
不思議だ。

人見知りなのだろうか。


もう用は済んだとばかりに荻野目くんは背をまるくして歩いていってしまう。

ふーっと、静かすぎるその動作に私は一瞬気づけなかった。


「見学、来るつもりある?」

慌ててそう言えば荻野目くんは振り向いてこくんと一回頷く。


不思議な子。

というか、一回くらいしゃべってもいいんじゃないか。

あの静かさと人見知り具合は、まるで猫だなぁ、と思った。



人に懐かない、黒猫みたいな男の子。


それから心の中で勝手にニャンコくんと呼ぶようになったのは私だけの秘密だ。



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