アドラーキャット
カタカタと私がキーボードを叩く音と、たまに聞こえる荻野目くんがページを捲る音だけが部屋に響く。
半日ほど荻野目くんと一緒に過ごしてきてかなり肩の力が抜けた。
彼氏彼女の関係になればこんなふうな日常の過ごし方も普段とは違くなってしまうのでは、と考えていたのだ。
私と傑先輩の時は、付き合う前と後ではなんだか空気が違っていたから。
「みずき、これ食べる?」
そう言って荻野目くんが手渡してきたのはざら飴だった。
普通の飴の周りに砂糖をコーティングしたもの。
小学生くらいのとき、よくこれを食べていた。
紐つきで、大きさが様々だったからクジ引き感覚で楽しんでいた。
「ありがとう。」
久々の味に、懐かしいな、と思った。
コンビニなどには売っていないから、中学生から一回も食べていなかった。
駄菓子屋に行けば今も普通に売っているのかもしれない。
コロコロと舌の上で飴を転がしていたら、ぼふっと背中に衝撃がきた。
「……なにしてんの?」
「……。」
荻野目くんに背中から抱きつかれていた。
うりうりと頭を私の肩口に埋める。
なんなのだこれは。
てか、邪魔だよ荻野目くん私レポートが出来ない。
「あのー、荻野目くん、なにしてんの?」
「……。」