アドラーキャット
「これ、食べていい?」
ロールケーキを指差しこちらにクリクリの猫目で見つめてくる荻野目くんを見ながら、コンビニからの帰り際に祐介くんに言われたことが頭の中を巡っていた。
「俺、瑞希先輩が大学に入って彼氏いるって打ち明けるまでずっと、瑞希先輩は荻野目のことが好きなんだと思ってたんですよ。」
私の返事も聞かずに、荻野目くんはロールケーキを食べ始めた。
ないな、と思う。
だけど、自分のことは自分が一番分かっているつもりでも、本当は全然分かっていないものだ。
他人からはよく見えるのに、自分では近すぎて見えないって、誰かが言ってた気がする。
言ってなかったかもしれないが。
「荻野目くんはさ、」
私の小さな呟きに反応した荻野目くんはロールケーキを頬張りながらこちらを見た。
「私のこと、いつから好きだった?」
私の問いに、荻野目くんは少し思案する。
手についた生クリームをペロリと舐めてから、ぼんやりとした口調で答える。
「わからない。」