アドラーキャット
私は和歌サークルで黙々と枕草子を読んでいた祐介くんの隣に座っていた。
みっつほど離れた机の向こう側では、荻野目くんが黙々と伊勢物語を読んでいた。
少し、荻野目くんとは物理的にも精神的にも近寄りがたかった。
「瑞希先輩。」
こそっと、荻野目くんには聞こえないくらいのボリュームで祐介くんが話しかけてきた。
「なに?」
聞き取りづらかったので顔を寄せると、祐介くんは眉間にシワを寄せて枕草子の大きな本をばっと立てた。
「荻野目と、何かあったんですか?」
こっそりと耳打ちされた祐介くんの言葉にぎくりとする。
あったといえばあった。
ていうか、ほぼ私が原因で。