アドラーキャット
バレッタというのだろうか。
オシャレというものにそこまで興味があるわけではない私の目を引いたのは佳乃子ちゃんの髪を留めている大きなリボン。
パチン、とつける時に音がしていたから髪ゴムではなさそうだ。
綺麗な黒髪を読書の邪魔にならないように留め、佳乃子ちゃんは手元の本に目を落とす。
睫毛の影が出来て、本当に綺麗だ。
うん、よし、佳乃子ちゃんがどんなに可愛くても、いくしかない。
覚悟を決めてやるしかないときは誰だってあるもんだ。
「ねぇ、佳乃子ちゃん。」
私が精一杯の勇気を振り絞ってそう声をかける。
佳乃子ちゃんはまんまるな目をパチクリさせてこちらを見た。
そんな表情も様になってるよ、佳乃子ちゃん素敵。
「なんですか?」
可愛い見た目に反して少し低めの声。
ごくりと、唾をのむ。
「私、荻野目くんと付き合ってるんだよね。」
パチパチパチ、と三回瞬きをした佳乃子ちゃん。
予想通りの可愛らしい仕草。
「そうだったんですか。」
様々な反応を考えていたが、佳乃子ちゃんは最も普通な反応を返してくれた。
驚いた、という顔をしてこちらを見ている。
パタリ、と本を閉じ、口を噤む。