アドラーキャット
この二年間毎日のように荻野目くんに絡んでニャーってしてもらおうとしたのに一回もしてくれなかった。
荻野目くんってケチだねこのやろー‼って叫んでもダメだった。
私が白い目で見られただけだった。
世知辛い。
「みずき、大学入ったら、下宿するの?」
「んー、そうだね。地元だけど、大学生のうちに一人暮らしには慣れといた方がいいって言われたから。」
私の言葉に荻野目くんは少し考えるような仕草をした。
「勉強、教えて。」
「へ!?」
「みずきの行く大学、今んとこ第一志望だから。」
「本当に!?」
こくんと頷いた荻野目くんに、私は少し嬉しくなった。
高校を卒業しても、慕ってくれる後輩がいると思うと、大学生活も楽しみになってきた。
「あ、荻野目ここにいたんだ。」
ちょうどその時、祐介くんが来た。
「祐介くん‼」
「あ、瑞希先輩、卒業おめでとうございます。」
「その言葉‼祐介くんはいい子だね‼」
「なんすかそれ。」
ハハハ、と笑う祐介くんは、入学時よりもずっと大人びた顔をしていた。
10cmほど伸びた背は、もう私が見上げなきゃいけないぐらいだ。
男の子は、成長が早い。
荻野目くんも伸びてはいるのだが、私より5cm高いくらいで祐介くんと比べるとあまり成長してないように見えてしまう。
「祐介くんは、志望校どこなの!?」
「あ、荻野目と同じとこです。」
「つまり私と一緒だよね‼やっほぅ‼」
「これから一年受かるように頑張ります。」
ヘラっと笑った祐介くん。
遠くから彼の名前が呼ばれ、失礼します、と言ってそちらへ行ってしまった。
残された私と荻野目くんの間には、しんみりとした空気が流れる。
今だったら、どんなクサイ台詞でも泣ける気がする。
そのくらい、卒業って、なんか、しんみりする。
「荻野目くん、バレー部の集まり行く?」
「行かない。」
やっぱり、と私は短く笑う。
いつだったか、荻野目くんが言っていた。
煩いのは嫌いだ、と。
なんだか彼が言うことの全てがネコっぽく思えてしまって、その時も笑ってしまった気がする。
もう、彼と軽口を交わせることも少なくなるだろう。
でも、きっと人生ってそういうもんだ。
別れて、出会って、また別れて。
その繰り返し。
だからこそ、一瞬一瞬がすごく大切なんだ。
「荻野目くんと話すの、けっこう楽しかったよ。」
卒業という感傷に、流されたのかもしれない。
でも、本心だったと信じたい。
「俺も、まぁまぁ、楽しかった。」
具体的には言えないけど、確かに、私は彼らに何かを残せたんだと思った。