アドラーキャット
「聞いてる?」
佳乃子さんの声が聞こえた。
そして、花の香り。
口に何か柔らかいものが当たった。
……え?
一瞬で頭が覚醒する。
瞬間、佳乃子さんが後ろに下がり彼女の背後に人影が見えた。
まさか。
サーッと血の気がなくなるのが自分でも分かる。
目をまんまるくして、口をポカンと開けて、みずきが立っていた。
なんてこった。
だが、すぐに意識が朦朧とし、みずきの姿も焦点が合わなくなる。
「…………」
何かみずきが言ったようだが、言葉が聞き取れない。
まずい。
これは、まずい。
そこで一気に俺の意識はなくなっていった。
そうして丸一日眠り続け、起きたら俺はみずきと別れたことになっていた。
祐介からその話を聞いたときは思わず頭を抱えた。
そして一週間前にも呟いた言葉を再び呟く。
「ありえない。」