アドラーキャット
目を細める傑先輩の顔を見て、苺大福を見て。
それから。
「……傑先輩藁人形とか持ってたりしません?」
「持ってねぇよ。浮気されたからってニャンコくんを呪うな。」
「浮気されたんなら呪うくらいいいじゃないですか!」
わーわー騒いで先輩に噛みついて困らせて。
実際、私は自分でも分かっていた。
とどのつまり、自惚れていたのだ。
荻野目くんが私以外の人を好きになるはずがない、と。
そんな保証はどこにもないし、本当だったらそうならないよう努力しなければいけなかったのに。
料理一つまともに出来ない私だったらなおさらのこと。
ずずっと年寄りくさくお茶を啜りながら傑先輩は呆れたように私を見やる。
「お前の勘違いっつーか、早とちりってこともあるんじゃねーの?つかお前だったらありえるな。」
「先輩が何言ってるのかイマイチ分かりませんけど馬鹿にされてるのは分かりました。」
「おい拳を握るな。」
手を上げて待った、と苦笑いする先輩。
ムシャクシャして机の上にあった苺大福を一つ取る。
口に入れれば、餡子の程よい甘さが広がる。
一口では苺までは届かない。
「ニャンコくんが本当は浮気してなかったってこともあるかもしんねーだろ。」
二口目。
苺の酸味と餡子の甘さがちょうどいい。
むすっとした顔を向ければ、先輩は肩を竦める。
どう言っても私の機嫌が直らないと分かったのか、よし、と呟くと高らかに宣言した。
「呑みに行こう!」
「昼間っから呑むとかダメ人間の典型ですね先輩。」
「金はすべて俺が出す。」
「駅前に気になってた店があるんですよ!!」