アドラーキャット
クマがいた。
いや、森から降りてきて民家に侵入して畑の野菜を貪り食うクマではなく、テディベアの方のクマ。
チェック柄や水玉模様、花柄まで様々な柄の布で作られたのであろう、テディベアが部屋のあちこちにちょこんと腰掛けていた。
窓枠に並んで座る赤、緑、白の三匹。
テーブルの真ん中のカゴに入れられた五匹。
壁に掛けられた三匹。
とにかく、360度いたるところにテディベアがいる。
しかも見た感じ全て手作りのようだ。
「これ全部作ったんですかね。」
「何年かかったんだろうな。」
上を見上げて傑先輩とそんな話をしていたら、落ち着いた声で話しかけられた。
「いらっしゃいませ。」
店員さんだ。
慌てて顔を正面に戻す、と。
「あ。」
「あ。」
「え?」
間抜けな声が三つ重なる。
テディベアが大量にいるカフェ。
店員さんは、いつかのバーで自棄になっていた私にブルーベリーパイをくれたあの優しいお兄さんだった。