SAMURAI PLUM
【壱】strawberry face

大都市、アメストア【J地区】。

超高層ビルが建ち並び、外壁には企業広告や巨大ディスプレイが設置され、陽が傾くとネオン灯や電光看板が街を彩る。

桃、青、黄、緑。

そんな華やかな繁華街を、人々は【宝石街~Jewel box~】と呼んだ。

そしてその一角にある【HOTEL-FILIP】の2106号室から、この物語は幕を開けようとしている。


『本日の【J地区】は一日晴れ。気温7.7度。湿度14%…───』

『───…【J地区】の交通情報は、23-26間で約15kmの渋滞』

『昨夜【J地区】3番街にてAndroidによる暴行事件が…───』


乳白色の浴室。壁掛けのシャワー。湯気が昇る中に、女はいた。

黒のショート。檸檬(れもん)型の瞳。薄い唇。白い肌。

細い身体に水が滴り、浴室に投影された情報番組に耳を傾けている。

名を、黒崎 楓(くろさき かえで)。


「───…ふう」


湯を止め、バスタオルを片手に黒崎は浴室を出る。

だが、身仕度をしようとした刹那、彼女は硬直し、手からバスタオルが滑り落ちた。


「きっ、きあっ、あっ」

「あんたが新入りさんだね?」


そこには、平然とした態度でベッドに座る男が一人。

柔い毛質の海胆(うに)頭。端正な顔立ち。丸縁のサングラス。左耳を飾るピアスの数々。

モッズコート(鼠色)にマフラーを巻き、右手には【甘味堂】のメロンパンが握られている。


「仕度しな。仕事だ」

「きゃああああ…─────っ!」


名を、烏間 蓮次(からすま れんじ)。

< 1 / 16 >

この作品をシェア

pagetop