SAMURAI PLUM

J-STAGE総合病院…───。

許可病床数850床。診療科(内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、Android科)を含む【J地区】最大の病院。


「………。」


ゴム床材の廊下。烏間は【4103号室】の前で足を止める。

病室(個室)の横には、電光掲示で入院患者の名前が記されている。

品川 沙耶(しながわ さや)。

拳骨で扉を叩き、返事を待たず烏間は開ける。

質素な室内。遮光カーテンが紅に染まり、花の香りがする。


「あっ、蓮(れん)君」

「よう、起きてたか」


「はは、まだ眠くないよ」


病床の隣に座り、口端を緩める烏間。

彼女、…───沙耶は、毛先を巻いたショートボブ(ブロンド)。アーモンド型の瞳。筋が通った鼻に、果肉のように潤う唇。

その透明感に多くが目を奪われてしまう。


「ほら、頼まれてた物だ」


そう言って手渡したのは一冊の料理本。


「わあ、ありがとう蓮君」

「飽きないのか。料理本ばっか」

「いいの。料理くらいできないと、旦那が逃げちゃう」

「それは言えてるな」


そう意地悪な笑みを浮かべると、沙耶は烏間の頬をつねった。

そしてその手は頬を滑り、首筋を撫でる。


「疲れてるね、蓮君」

「そんな事ない」

「ちゃんと栄養ある物食べないと駄目だよ?」

「…ああ」


おでこに掛かる髪を撫で、烏間は柔らかく微笑む。

すると突然、病室が勢い良く開き、大勢の子供が押し寄せた。


「ほらな、言ったろ。蓮々(れんれん)だ」

「蓮々、またあやとり教えて」

「駄目だよ。蓮々はSAMURAIごっこするんだから」


一瞬にして囲われた烏間。

沙耶と見合せ、互いに苦笑いをする。


「私はいいから、遊んであげて」

「あ、ああ」

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