SAMURAI PLUM
2238年で言う料理本とは、紙媒体の物ではなく、可搬性に優れた小型の補助記憶装置を指す。
携帯端末に接続する事で、一度に複数の情報が投影される。
病床に半身を起こし、投影された映像を眺める沙耶。
目ぼしい箇所に印を残していると、突然病室の扉が開いた。
「蓮君、早かったね…───て、どちら様?」
映像を閉じ、首を傾げる沙耶。
その瞳に写るのは、桜の柄付けが施された着物(紺)姿の女。
女ははっとした様子で、慌てて頭を下げる。
「す、すみません。病室を間違えたみたいで…───」
「あ、ちょっと待って。あなた回収屋の人だよね」
「え、は、はい」
「もしかして蓮君…───、烏間さんに用かな」
上司の名に着物姿の女、黒崎は頷く。
「すぐ戻ると思うけど、急ぎなら呼ぼうか」
「あ、いえ、待ちます」
「そっか。なら戻るまで話相手になってよ。退屈なんだ、病院(ここ)」
「ね」と微笑む沙耶に、観念したのか病床の隣に座る。
(綺麗な人)
品川沙耶を包む雰囲気に、つい見惚れてしまう黒崎。
「品川沙耶。23歳。沙耶って呼んで」
「黒崎楓。22歳です」
「もう、敬語はやめてよ」
「わ、分かった」
「よろしくね」と手を交わす二人。
病室の扉を開けた時から、黒崎には一つ気掛かりな事がある。
それは彼女、沙耶には両足がなかったのだ。