SAMURAI PLUM
屋上扉を開くと、ひんやりとした風が頬を撫でた。
乱れた髪を整え、歩を進める黒崎。
視線の先には、穂先から紫煙を昇らせる男の姿がある。
柔質な海胆(うに)頭。丸縁のサングラス。中性的な顔立ちのその男。
烏間 蓮次(からすま れんじ)。
「悪いね。まだ話の途中だったかな」
「私がいた事、気づいてたんですね」
「偶然さ。聞いたんだろ。足の事」
「烏間さん、私…───」
「───…SAMURAIは常に無情であれ」
その言葉に、再び胸が痛む。
「的を射た言葉さ。俺達の仕事は、あくまで“人間"の安息。犬や猫、草花にまで身心を削ってたら、必ず驕りが出る。その驕りが、あいつから光を奪っちまった」
「………。」
「俺はもう、躊躇わない」
「私も…───、私も、もう躊躇いません」
覚悟を帯びた目に、烏間は口端を緩める。
それは鬼面(strawberry face)と呼ばれる男からは想像できぬ程、穏やかな表情だった。
「でも楓ちゃん、決して“人間"である事だけは手離しちゃいけない」
「“人間"で、ある事」
「そうすれば、拾える物もある」
口唇から漏れた煙が、ゆらゆらと溶けてゆく。
ほろ苦い香りを残して。