SAMURAI PLUM
薄暗い階段を昇り、銃は下に構える。
草履が擦(こす)れ着物が摩れる。浅い呼吸を整え、増えてく階数に目を配る。
やがて屋上扉に着き、黒崎は通信機に指を添える。
「こちら黒崎。いつでも行けます」
『こちら烏間。こっちもだ。楓ちゃん、準備はいいね』
「はい」
『それじゃあ、three、two…───』
ごくり。
『───…one』
合図と同時に扉を開け、銃を構える。
冬風が髪を撫で、モノクロの景色にE2(エルマイム・エネルギー)の反応が映った。
「動かないで。SAMURAI【執行部】です」
烏間の姿がない。銃を握り締め、対象を見据える。
見据える先には二つの影。男と女。すると男は突然、SAMURAIの名に慌て始めた。
「お、おい待ってくれよ。俺はAPO社製だ。何もしてない」
「違…───」
「───…勘違いするな。用があるのはあんたじゃない。“彼女"の方さ。加藤悠希さん」
刹那、黒崎の言葉を遮り、背後から声が聞こえた。
柵に腰掛け、肩で刀を弾ませる男。
烏間 蓮次(からすま れんじ)。
烏間のモノクロの視界には、E2(エルマイム・エネルギー)の反応が二つ。
当然、黒崎もだ。
「か、烏間さん、どこから」
「わ、私に用って。私は人間よ。Androidじゃないわ」
「そそ、そうだ。彼女はAndroidじゃない。見ろ。識別番号だってないじゃないか」
動揺を隠せず、口調が荒くなる男。
識別番号とは、Androidの首元にある個体情報を数字化したものだ。
あればAndroid。なければ人間。
だが一概にそうも言い切れない。
違法Androidの存在だ。
識別番号の不記載等、巧みな手法を用いて欺く。
そうして出荷されたAndroidに共通して言える特徴が一つある。
それはAndroidである事の無自覚。
現に対象は酷く脅え、混乱している。
「退いてな。邪魔をするならあんたも斬るぜ」