*お向かい彼氏*
「…ひかるちゃん。」
峰さんの寝息だけのこの場に少し低い声が響く。
「なんですか…?」
「ちょっと話しましょ?」
お酒を置いて立ち上がった八田さん。
逃げちゃダメだ…本能的にそう思ってあたしも腰を上げた。
蝉の声を聞きながら旅館の中庭の石段に腰掛ける。
ふと見た彼女の顔はなんだか淋しそうでー…
「2人っていつから付き合ってるの?」
心無しか、そんな言葉も震えて聞こえる。
「…バレンタインの前あたりです。初対面で光輝が告白してきてくれました。」
そう…。呟いた言葉は蒸れた空気に消える。
なんだろ。
なんでこんな嫌な感じがするのかな。
何を写しているのかわからない彼女の瞳が恐かった。