空と月の下
紫陽花が色濃く映る霧雨の降る6月。
もう雨は一週間も続いている。

そんな雨降る日、一人の男が部屋の中で佇んでいた。




「はぁ…せっかくの休みだって言うのに、また雨かよ。洗濯しても部屋干しばっかだな、最近…」




洗濯機の中には大量の洗濯物。
一週間分だけあってタオルや、仕事で着ていたシャツ類が多い。男はドラム式の洗濯機に力いっぱいに押し込むが、一枚のワイシャツに違和感を感じ、慌ててそのワイシャツを引き抜いた。




「危ねぇ…一緒に洗うところだった…」




引き抜いたワイシャツの胸ポケットから出てきたのは定期入れ。
出勤する時に欠かせない定期。
その定期には使用期限と、甲斐という苗字部分が見えている。

甲斐は定期入れを通勤バッグに仕舞い、ワイシャツを洗濯機に押し込むと、スタートボタンを押した。




「あぁ、せっかくの休みが洗濯に消えていく…」




泡立たせながら洗濯機に水がたまっていく。そして、ようやく洗濯機は回り始めた。その動きをただ見つめ、ため息をこぼす。

一週間待ちに待った休日。

何か用事があるわけではないけれど、唯一ゆっくりできる自分だけの時間。

甲斐は洗濯機から離れると、時間を知るために自分の携帯を置いているリビングへ向かった。

いつもの置き場所であるローテーブルへ視線を移し、携帯の存在を探す。




「あれ?いつもこの辺に置いているけ…ど……」




どこにも見当たらず、甲斐は記憶を探る。




「あっ!!」




嫌な予感に甲斐は勢いよく振り返った。
そして足早に向かうのは、つい先ほど自分がスタートボタンを押した洗濯機。




「そういや、昨日メールしてたから風呂場まで携帯持って行ったんだった…うかつだった…その上にタオルやらシャツやら置いてしまうとは…」




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