空と月の下
「こちらに記入をお願いします」




店員に言われるままに、甲斐はペンを持ち、記入場所を埋めていく。
後少しで書き終わるという時、隣で女の人の声が聞こえた。




「だから、どうしてこんなに時間が掛ってるのよ!もう1時間過ぎてるのよ!」




突如店内は緊張感に包まれた。
甲斐も驚きながら、騒ぎの元凶となっている隣へ視線を移す。




「え…」




立ち上がり、店員と目を合わせているその女の人に甲斐は見覚えがあった。




「沙紀…」




つぶやく甲斐の声に、自分の名前を呼ばれたことに驚いた沙紀が甲斐へ視線を移した。




「か、甲斐…」




力なく開かれた口元のまま、沙紀は甲斐との再会に驚いていた。
それから落ち着きを取り戻した店内で、甲斐と沙紀はお互いの用事を済ませると、まだ降り続ける雨の中、二人は近くのコーヒーショップに入る。


空いた席に沙紀を座らせると、甲斐はレジへと向かった。




「あ、甲斐。私…」

「あぁ、分かってる。甘めにしてくるよ」

「はは…ありがとう…」

「はいはい」




それから約10分くらいで甲斐は注文したコーヒーを持って、沙紀の待つ席へと座った。




「ありがとう。いくら?」

「いいよ、それくらい」

「…ありがとう。いただきます」

「はい、どうぞ。しかし、甘党は相変わらずか」

「コーヒーは飲みたいんだけど、やっぱり苦いのは苦手」

「なら、飲まなきゃいいじゃん」

「だから、コーヒーは飲みたいの」




懐かしさに甲斐と沙紀は微笑み合う。




「あぁ、おいしい。シロップ多めは至福よね」

「懐かしいな、ホント」

「そうね…。もう、何年になるんだっけ…」

「…約5.6年か…?」




少しの間沈黙が流れた。
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