空と月の下
同じ時を刻み、知らないことはないと思っていた甲斐の中で何かが崩れていくのが分かった。

その衝動が甲斐には悔しく感じられた。




「私ね、文系。法律、勉強したいんだ」

「法律…今、理系分野にいるのに?」

「うん。高校入るまでは数学も科学も好きだったし得意だったから、それを生かした分野に行くんだと思ってたけど、すごく法律について知りたくなって…だから、今と分野は全然違うけど、文系に行くことに決めたんだ」

「………そうか…」

「甲斐は?工業系?」

「あぁ…」

「そっか」




会話が続けば続くほど、甲斐の心にあるモヤモヤが濃くなっていく。
そして再び甲斐と美菜の間に沈黙が流れていた。

美菜の手に握られたイチゴミルクは完全になくなり、異様な雰囲気の中、二人の時間は終わろうとしていた。




「…あっと…甲斐、今日は委員会…」

「…あるよ」

「じゃ、行かなきゃ…また沙紀さんに怒られちゃうよ」

「…そうだな…」

「う、うん」

「じゃ、行くわ。じゃぁな」




つい数分前までは和やかだった雰囲気。それがいつの間にか会話をするにも戸惑う雰囲気に変わっていた。
甲斐は美菜に顔を向けることなく、そっけなくその場を去って行った。

突き放されたような感覚が美菜を襲う。

締め付けられた胸の痛みが、一気に不安の感情を溢れさせる。




「何だろう…この感じ…」




胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をすると、美菜は靴箱に向かった。

来る時は甲斐と二人だった廊下を、今は一人で歩いている。通り過ぎていく教室にも誰もおらず、響く足音は美菜のものだけだった。
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