空と月の下
髪をとき、ゆるふわなお団子を右下に作りヘアアクセでとめる。普段は後ろでひとまとめにしている美菜には、その自分に起きた髪型が魔法のように思えた。




「やっぱり、浴衣にはまとめ髪よね。うん、これでいいと思うわよ」




ポンと背中を押され、美菜は照れながら玄関へ向かった。




「いってらっしゃい。楽しんでらっしゃい」




母親は笑顔で美菜を送り出す。
美菜も笑顔で家を出た。


花火会場は最寄り駅から一駅先にある川原。
郁との待ち合わせは一駅先の改札口となっている。


季節柄、暑いということは変わらないが、昼間の刺すような日差しの暑さとは比べ物にならない程夜の暑さは柔らかい。
駅は電気が灯り、電車の中も電気が煌々としていて、すっかり夜なんだということを思い知らされる。

一大イベントということもあり、電車の中は花火大会に向かう人々で埋め尽くされていた。混雑するということを予め予想していた美菜は、時間に余裕をもって出てきた甲斐があったからか、待ち合わせ時間にかなりの余裕をもって着くことができた。

待ち合わせ時間まで後約30分。

当然まだ郁は来ていない。


駅周辺は、駅員が拡声器を持ち、花火大会へ行く人々を会場まで誘導している。その声は止まることなく響き、騒々しさを物語っていた。

郁が来れば携帯に連絡が来るはずだとは思うが、この混雑模様を見ていると、待ち合わせ場所から移動してしまうと連絡が来たとしても見つけるのは困難だ。

となると、今立っている待ち合わせ場所から動くわけにはいかない。

美菜は、待ち合わせ場所である改札口近くの柱に寄りかかり、改札口を見つめていた。

様々な人が改札を通り、花火大会の会場へ向かっていく。


人の多さを改めて感じた美菜は、そのまま改札口を見つめていた。
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