空と月の下
体ごと背け、甲斐と向かい合うことを止めた。

痛む心に、震える指先。


あんなに居心地のよかった甲斐の隣は、美菜の居場所ではなくなっていた。




「と、いうことなんだ。以上、報告終わり!ごめんな、呼びとめたみたいでさ。じゃ、また新学期に会おうな。じゃ!」




人々の騒ぐ声の中に混ざる甲斐の足音。
砂利を帯びていた音が小さくなり、やがて消えた。


騒ぐ心はまだ落ち着かない。




”沙紀と付き合うことになった”



はっきりと声が頭に残っている。



”いつも一緒にこうやっていることが普通だと思っていた…”



この言葉が更に美菜の心を騒がせた。




「私だってそう思ってた…楽しかった…」




握りしめた手に汗が滲む。美菜は顔を上げ、甲斐が消えていった会場の入口へ視線を移した。
見える景色が涙で歪む。

溢れ出た涙は頬を伝い、地面を濡らした。




「あ…れ?私…泣いてる…」




涙を手で拭い、それでも溢れる涙に目を閉じ、声を押し殺して泣いた。
止めたくても止まらない。

思い返せば思い返すほど涙はこぼれていく。


今まで過ごした時間分の涙を出しているようだった。




「……そっか…私…好きだったんだ…甲斐のこと…」




初めて気付いた美菜自身の気持ち。
なのに、もうどうすることもできない。

切ない想いに、更に涙が溢れた。

そんな美菜の前に一人の人物が現れる。
美菜にはその人物に検討が付いていた。




「美菜…」

「…郁…」




拭っても拭っても涙は流れる。
そんな美菜を郁は悲痛な面持ちで見ていた。

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