空と月の下
ある程度覚悟はしていたつもりだけれど、外の暑さは容赦なかった。

心躍る気持ちで家を出た甲斐だったが、ほんの数分で太陽の暑さによって現実に引き戻された。




「こ、これは…かなりの暑さ…早く図書館に行かなきゃ、俺、死ぬな…」




目的地である図書館の建物は見えている。
けれど、あまりの暑さで図書館が蜃気楼のように見えていた。

モヤモヤとアスファルトの景色を揺らすほどの熱は、体全体を蒸すのには十分すぎるほどの暑さだった。




「もうちょっと…あともうちょっと…」




呟きながらも進ませた足は、ついに図書館の入口付近にたどりつく。
待ち合わせはこの辺り。

時折開く、自動扉から漏れるエアコンの冷気が甲斐の体に心地よさを与えている。


後ろ髪引かれるものがあるが、先に中へ入るのも行き違いを起こしそうで、それもまた面倒だ。


そう思い、甲斐は暑い中、入口付近で沙紀の姿を待っていた。
そして数分後、目的の人物が現れる。




「ごめん、待った?」

「いや、それほどでも」




沙紀は手で扇ぎ、早く中に入ろうと甲斐を促した。
その意見に甲斐も賛成する。

図書館の中は予想以上の快適な風が館内を巡っていた。

汗だくな体が一気にひんやりとした心地よさに包まれていく。




「あぁ、すごく涼しい!甲斐、あの辺りどうかな?あまり日が届いてなくて涼しそうだよ」

「え?あぁ、俺は別に座れればどこでもいいよ」

「えぇ…じゃぁ、あそこにしよう」




目的の席に荷物を置くと、レポートを書くための資料として参考にする本を探しに本棚へ向かう。
そこから沙紀は数冊の本を手に取ると、席に座り参考資料を読みふけっていた。

ある程度まとめない限りにはレポートは書けない。

甲斐はその時間をつぶすために、自分用の本を手に取った。
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