空と月の下
「ねぇ、ここは?どういうこと?」

「ん?」




席に座った途端に受けた質問に、甲斐は驚きながらも指を刺す箇所を覗き込む。

その途端に物音と共に自分自身に向けられる視線を感じた。


甲斐はふいに顔を上げる。


そこには美菜の姿があった。




「ねぇ、甲斐。ここ、なんだけど…」

「あ、あぁ…ごめん。ここね…」




無言で見つめる姿に、どう声を掛けたらいいのかが分からなかった。
そして、必死に訴えるように不安な瞳を向ける沙紀を無視することはできない。


結果的に、甲斐は美菜と会話をすることはなかった。


別にまた会った時に声を掛ければいい。
そう分かっているはずなのに、心のどこかで何かが引っ掛かっている。


甲斐には、それが何なのか分からなかった。



それから約一時間の時が過ぎ、ある程度の資料を抜粋してまとめた沙紀は荷物を片付け始めた。
その様子を見て、甲斐もまた荷物を片付け始める。




「甲斐、行こうか」

「そうだな」




沙紀の言葉を受け、甲斐は沙紀と共に図書館を出た。
帰り際に見た美菜の姿はどこか寂しそうな気がした。

姿といっても後ろ姿だから勘違いかもしれない。

そう言い聞せるように甲斐は納得した。




「ねぇ、甲斐」

「ん?」

「だから、行く?花火大会?」

「花火大会?」

「やだ…何?忘れてた?今日でしょ、花火大会!」

「花火大会…あ、あぁ、そっか!今日だ、今日。うん、行くよ」

「やった!じゃ、私、浴衣着よう」

「え、浴衣!?」

「え、何?ダメなの?」

「いや、全然。予想してなかったから、ちょっとビックリっていうか…そっか、楽しみだな」

「そう?じゃ、頑張るよ」

「おう」
< 40 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop