空と月の下
はにかんだ笑顔で舞と新郎が会場を歩き、披露宴の主役席に座る。


そのまま披露宴は順調に進み、最後は新婦の手紙で感動に締めくくられた。


その後は二次会も予定されていたが、次の日が仕事ということもあり、参加せずに帰路についた。

華やかだった披露宴の余韻が頭から抜けずに、月明かり差す夜道が幻想的に思えた。

美菜はコツコツと響かせている自分の足元に目を向ける。
そこに伸びている自分の影。




「月、か…」




美菜は月を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。




「どうしてるかな、あいつ…」




ふいに思い出す人物。
月明かりが目立つ日に思い出す人がいる。

付き合ったわけじゃない。

だけど好きだった。


ただ想いを伝えることなく時が過ぎてしまっただけ。



今では、何をしているのか、どこにいるのかさえ分からないのに、いつもふと思い出す。


もしかしたら彼も、今この月を見ているのかもしれない。


小さく笑う美菜の表情は少し寂しげだった。




「!!」




パーティバッグに入れていた携帯が小刻みに震えている。美菜は慌ててバックから携帯を取り出し、通話を押した。

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