貴女に捧ぐ心
彼女の魂に手を近付け、小さな魂の中からさらに小さい光の玉を取り出し、掌に引き付けた。
そして「無」になった魂を解放する。
魂はスルリと指を通り抜け、どこかへ去ってしまった。
「お前もさよならだ」
小さな心は光をなくさずに浮遊する。
それを俺は大きな鎌で砕き、風に運ばせた。

「レン」
不意に誰かに俺の名を呼ばれ、少々びくっとした。
でもこの綺麗で男らしい声は知っていないわけでもなかった。
「…馨(かおる)だな?」

当たりー!、と喜んでヘラヘラ笑うのは、俺の相棒の馨だ。
長く綺麗な髪を靡かせ俺に近付いて来た。こいつはかなりカッコイイと女に評判である。
馨が言うに、生前は関わっていなかったらしいが、歳が同じということで俺達はかなり仲が良い。
と、言うより正確にはこいつが当初俺にしつこく纏わり付いたから仲良くなってやったのだが。

「レンがいなくて俺かなり寂しかったんだからなー」
「うっせー、女と遊んでるくせに」

でも、こいつは俺なんかとは全然違う。
それは、馨には「心」があるからだ。
心の無い死に神は、自分の生前なんて知らないはずなのに、馨は知っていた。
それに「寂しい」という俺には無い、人間と同じ感情まで持っている。
寂しいだけじゃない。人間の出す全ての感情が馨にはあるのだ。
馨は俺が死ぬもっと前に死んだらしい。だから技術や経験値は俺の大先輩に値するのだ。

死に神として過ごしていても自然に心は取り戻せると馨は言っていた。
でもそれはきっとかなりの根気が必要なことだと思った。

心を取り戻せば、魂を狩ることができなくなるのでは、という疑問があったが、馨はベテランのため心が戻っても動じなかったらしい。

しかし馨と俺は格が違うというのは出会った時から感じていた。
いや、誰に会っても俺は格が低いということがすぐに分かった。

何故かと言うと、他の死に神には銀色の大きく美しい翼が背中に二つ着いているのだが、俺には一つしかない。
どうしてか、俺は死に神になった時から左の翼が無いのだ。
一応片方の翼だけでも何とか飛べるのだが、速さは他の死に神に比べてかなり遅い。

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