貴女に捧ぐ心
翼は無いし、心は無いしで、俺は本当に落ちこぼれな死に神だ。

「…そんなことより馨、お前は一体何しに来たんだよ。また仕事の依頼か?」


「いーや、違うよ。生き物の世界に遊びに行きたくてさ。一緒に行かないかい?」

「は、俺が?」


生き物の世界というのは、いわゆる生きている人間や動物が生活している世界だ。

俺たちは仕事でよく行くのだが、俺はあまり関わりを持ちたくはない。


それに、死に神の指揮官に見つかったりすれば、こっぴどく叱られるからだ。

「……俺は行かない」

「じゃあ俺の見張りとか頼んじゃおっかなぁ〜?」

「それも無理」


どこまでもしつこい馨に、どこまでも断る。

人間の世界に遊びに行くなんて冗談にも程がある。
「じゃあ君には俺の分の仕事頼んじゃうよー?全部指揮官に頼まれた雑務だけど」
「行く!!!」

それには俺も即答した。

雑務なんてそれこそ冗談じゃない。

どうせ今日の死亡者数と死因の調査と死に神になった数を調査書にまとめるのだ。


それよりだったら生き物の世界に行く方が少々マシだ。

「ちなみに俺がサボってること指揮官は知ってるから、どっちにしろここにはいれないけどね」

「…それを先に言えよ」







「こっちこっちー!遊ぼおー!!」

「わーいッ!!」


太陽がじりじりと照り付ける中、子供達は走り回って遊んでいる。

俺たちは公園の中心にある噴水の周りに座った。

「いい天気だねぇー」

噴水の噴き上げる音が涼しさを感じさせた。

「じゃあ俺はパンでも買って来ようかなあ〜」

馨は公園の入口の向かいにあるパン屋を見た。

「あのパン屋のメロンパンはかなり人気なんだよ」

確かにそうらしい。かなりの人が店の前に行列を作っている。

「じゃあ俺のも頼む」

馨は列べるが、俺は列べない。


心を持つ死に神は人間の前に姿を現すことが許される。

だから馨は普通の人間のように列び、普通の人間のように人と接することができるのだ。

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