透明がきらめく
「お前、俺が他の女と話してるの嫌だって思ったんなら俺がお前が好きだっていうこと認めろよな」
「え、じゃああの子は…」
「お前こうでもしないと俺のこと見ねえだろ。なんか誕生日欲しいもんあるからそれ買ってくれたら協力するっていうから」
「そういう問題じゃなくて!全部あの、アンタの手のひらってこと……?」
「当たり前だろ。なんで鈴原の妹のこと好きにならなきゃいけねえんだよ。幼稚園生の時から知ってんだぜ。ま、これからよろしくな」
「ちょい、ちょい待ってよ」
「んだよ」
「ほん、本当に私のこと好きなの?」
「そう言ってる」
「わ、私まだアンタのこと好きだって言ってないか、ら」
そこまで言いかけると、お茶で少し湿った手のひらで勢いよくデコピンされた。
顔をあげてみると久保田の顔はさっきよりもずっと涼やかになっていて、珍しく眉間の皺が消えていた。
「ちげえだろ。俺のこと意識しろって言ってんだよ阿呆か」
騙されたことへの興奮からか、いつも以上に心臓が元気良く飛び跳ねる。
全身お茶まみれで濡れた髪の毛はぼさぼさ。
全くかっこ良くないはずの久保田にときめいているのか、そうでないのかは今の混乱した頭では判断できない。
しかしこのドキドキがいつもとはちょっとだけ違って口元まで這い上がってきそうなことは確かだ。
楽しそうに口元を緩めながら、中庭から去って行く久保田からはお茶の匂いがした。
彼氏がいた経験も、恋愛で胸が苦しくなるほど誰かを思ったこともない。
そんな私に初めて好きだと気持ちを告げてきた男は、恋愛初心者の私にとっては少しハードルが高い気がしてならない。
というか、そうに決まっている。
「え、私どうなるの」
そんな私の嘆きに答えなんて返ってこなかった。