透明がきらめく
不本意なときめき
「小野ボール拾って」
「……いいけど」
春の気配が消えて差し込む日差しも暑くなってきた今日この頃。
あまりに日差しが差し込んでシューティングがままならないために体育館のカーテンが閉められて、体育館は着々と蒸し風呂になる準備を始めている。
久保田から俺のことを意識しろ宣言を受けてからもう2週間が過ぎたが、私と久保田の関係は進展するどころか彼があの発言をする以前の関係に逆戻りしていた。
今まで通り部活が終わったら一緒に教室に帰るし、もちろん手なんか繋がない。
練習後の自主練に付き合ってそのまま二人で帰るし、そこに甘い雰囲気なんてものはみじんも感じられない。
最近ではあの出来事は夢まぼろしだったのではないかと疑い始めたくらいだ。
しかし今の関係が1番楽だったのは事実だし、終わり良ければすべて良しということで忘れてしまうのもありだろう。
バスケ部の方は、夏の県大会やその先にある全国大会に向けての地区予選や、そのために組まれた練習試合に校内合宿と行事が目白押し。
今の時期が1番忙しいのではないかというくらい私の可愛いスケジュール帳は真っ黒だ。
取り敢えず今週の土日に控えている練習試合に向けて、久保田やその他のメンバーも熱の入り方が違う。
何時もは体育館には大抵久保田しかいないのだが、他の部活も帰宅して全面使っているはずのコートも、リングの空きは一つだけと言うほどの大賑わい。
リングに弾かれてあっちこっちに飛び散るボールを追いかけるのが面倒臭くなってきて、1番真ん中にカゴを置いてボールに対応する体制を作った。
ボールを集めながらスパンスパンとスリーポイントを決めて行く久保田のことをぼんやりと見つめていると、私だってあれくらいという自信がどこからともなく湧いてきた。
すると先輩が放ったボールがうまい具合に跳ね返って私の足元に転がってきた。
これは一本打ってみろと何処かの誰かが言ったに違いない。そう思い、久保田のフォームをマネするようにして右手にボールを乗せて左手を添える。
唯一空いていたゴールを真っ正面に見据えて、両足をスリーポイントラインに並べ、そのまま思いっきり腕を使ってボールを放つ。
が、久保田と同じように打ったはずのボールはゴールどころかハイポストにすら届くことなく床に落ちた。
何故だ。久保田と私で何が違うんだ。
「届くわけねーだろ」
「わ!」