透明がきらめく

 
 人間はあまりの驚きを前にして何をするか。 私は学者でもなんでもない。研究をしたこともないが、今ならきっと学者の偉い人たちにも勝るリアルな答えが出せるはず。
 答えは冷や汗が止まらないだ。


「じ、」
「あ?」
「自主練、しようよ?」
「お前の答え聞いてからでいいや」
「よくないじゃん!」


 久保田は一向に返事をしようとしない痺れを切らしたのか、県大会常連校のバスケ部のベストメンバーを張るだけのデカイ体をずんずんと此方に進める。私は引き下がろうと足を擦るようにして後ずさって見るも、そこには体育館倉庫の冷たい壁があるだけだった。

 こういうのを背水の陣と言うんだ。
 昔の人はよく言ったものだ。実際に昔の人はこうして自分を窮地に追い込み、たった3万の兵で20万の軍勢を倒したのだ。そうだ私に勝機が無いわけではない。
 やたらと大きい久保田の体の間を縫ってそのまま外に飛び出してしまえばいいんだ。
 私はそう決意してズカズカと近づいて来る巨体の脇を、平均より小さい体を駆使して通り抜けた。成功した!そう確信してそのまま全力疾走で走り抜けようとした。

 したのだが、私はこの男がバスケ部だと言うことを忘れていた。やたらと長い足が私の足元に伸びてきて、そのまま私の左足に絡めて来た。
 もちろん私のポンコツ運動神経で咄嗟に対応出来るはずもなく、私の体はコロンとあっけなく体育館倉庫に転がった。
 体育館は板張りだが、なぜだか体育倉庫だけはコンクリート。
 ズシャっとひどい音を立てて思い切り膝を擦りむいた。
 

「どんくさ」


 お前さっきの好き発言どこに置いて来たんだ。
 怒りと混乱でアドレナリンが出まくったせいか、膝の痛みがうまく伝わってこない。


「ったく、無理に逃げんなよ」
「な、な、んで!なんで私なの!?」

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