透明がきらめく
コートに戻った久保田は、大丈夫だと言った宣言通りいつも以上に中に切り込むプレーをやって見せた。
水を得た魚のようとでも例えればいいだろうか。いつも以上に正気の宿った久保田の表情。
ああなってしまった彼を止めるのはなかなか至難の技で、試合が終わった頃にはダブルスコアで見事な勝利を収めていた。
見事勝利を収め、この試合一番点を稼いだ久保田だが、私にボールを投げるために捨てたワンプレーが随分と監督の逆鱗に触れたらしく、みんなによく見えるところでお尻に見事なタイキックを食らっていて、自陣からも敵陣からも笑いが漏れていた。
そうだ。冷静になって考えてみれば、体幹、インナーマッスル、基礎トレーニング大好きの体育教諭の監督が特に気にした様子もなく続投しているのだ。
その時点で彼の手首には異常がなかったのだろう。
なーんだ、心配損かと無駄に疲れた体を労わるように溜息を吐き出してから、相手チームのマネージャーと一緒に軽くスコアチェックをする。
公式戦でもないのであっさりと適当に確認をしてから、ベンチの片付けに向かおうとすると、ねぇと相手のマネージャーの1人に呼びかけられた。
「何か間違いありました…?」
「ううん、そういうのじゃなくてね、今日ボールこっちに投げた人のことなんだけど」
「…あ、あぁ、12番ですか」
ボードの端っこで口元を押さえながら笑うマネージャーからは、全身から好奇心と楽しんでいますというオーラが滲み出している。
もしかして久保田に興味でも持ったのだろうか。
あいつは普段能で使う鬼面のような顔をしているが、無表情の時やわりかし機嫌の悪かったりバスケをやっているときに見せるキラキラの笑顔は、その辺のアイドル顔負けだ。
むしろ大会に向かう途中に誰かがクレープが食べたいと言い出して立ち寄った竹下通りでスカウトされていたのも記憶に新しい。
ひん曲がった奴の根性性格プラスアルファ全て無視して、平たく言えばあいつはイケメンなのだ。
あいつは趣味がバスケしかないから、きっとバスケを知っているこんな感じの可愛い子が彼女に適任なんだろうなとぼんやり考えていると、相手のマネージャーは興奮したように飛び跳ねて、私に額を寄せた。
「あの12番、彼氏ですか??」
「………は?」
「だって危険省みず突っ込んできたし、わざわざ試合中断してまで声かけてもらってたり!」
「…や、あれはあいつが勝手にやったっていうか」
「この間12番さんに水道の場所聞いた時すっごい無愛想でめちゃくちゃ怖かったんですけど、あんな感じになるんですね!!」
ギャップがすごい!少女漫画みたい!
楽しそうに盛り上がるマネージャーに、あれは私の彼氏ではないという言葉はどうやら届いてくれないらしい。
もっと面白い話を聞かせてくれと女子特有のテンションで絡まれ続けること5分。
コートの反対側で哀れな私を見ていたらしい常盤くんが、痺れを切らしてベンチまで呼んでくれた。
常盤くんのくれたチャンスを逃すものかとそそくさとその場を逃げ出し、ベンチに戻ると、監督に油を売るなと小言を言われてしまった。