透明がきらめく
「ペアですか?もう少しお手頃なものお出しいたしましょうか?」
そう言って別のバッシュを手に取るお姉さん。
にこにこと愛想の良い笑顔を浮かべる店員にはなんの悪気もないのだろうが、私の思考を凍りつかせるには十分すぎる一言だった。
はたから見れば私と久保田はカップルに見えているということだろう。
はっきり口に出してこいつと彼氏だなんて思われるのが虫唾が走るほど嫌だとは言わない。
だがなんというか、ものすごくむず痒い。痒すぎて失神しそうなほどに。
久保田はこれを狙っていたのだろうか。
いや、彼がそんなみみっちいことをするようなタイプではないが、私は一応彼に告白をされている。一応。
私はこんなこと言われたらどう反応をしていいのか困ってしまうが、久保田はどんな顔をするのだろう。
ふと思いついて隣に立っていた久保田を盗み見すると、何故かバッチリと目があう。
何も言わずにまるで観察するかのように私をジロリと一瞥する。
その間にスニーカーを取りに行った店員は、私が履いているものと同じ真っ黒なジョーダンを持ってきてくれた。
「こちらでしたら」
「あ、いや、」
お姉さんジョーダンお好きなんですね、と屈託のない笑みを浮かべる彼女にペアスニーカーなんか探していないとどうやって告げようか。
何も言おうとしない久保田に困り果てて思わず眉を寄せる。
「あの、」
「競技用とただのバッシュ好きなんで、大丈夫です」
「あ、そうだったんですね、すみません。失礼致しました」
「や、こっちこそ」
そう言うと、店員は久保田の手から購入を決めたバッシュだけ受け取って1人レジへと向かってしまった。
胸の奥に違和感が走る。否定してもらってよかったじゃないか.私たちは付き合っていないのだから。
それだと言うのに居座るこの違和感は何なんだろう。
スポーツショップを出てから2人の間にもちろん会話はない。沈黙がまるで鉛のように重たかった。