透明がきらめく
そう思ったら急に照れくさくなってきて、手持ち無沙汰になった両手でとりあえず髪の毛を梳かしてみる。
もちろん朝にブラッシングはしたし、アイロンで毛先も巻いた。
別に今更どうにでもなる訳でもないが、もうちょっときちんと化粧をすればよかったなと今更ながらし後悔してきた。
私にそのつもりはなくても久保田にとってこれはデートだったのではないかと思うと、なんだか今日の私はとても気が抜けているというか。
もしかして私の格好を一目見た久保田の舌打ちもそういう意味だったのだろうか。
いや、だがここで私がばっちり可愛らしいワンピースにばっちりメイクをしていたらそれは久保田への想いに応えているみたいだ。
しかし私の中に久保田への明確な好意があるわけではない。
どちらかというと今私にそう思わせているのは、恋をしたことがあるという経験が起こす同情に近いような気がした。
残念だが私にとって久保田はまだまだ性格の捻くれた面倒臭い悪友の枠を超えられなくて、恋愛対象として純粋に彼をまっすぐに思う気持ちはない。
私が応えてしまえば全てが解決するのに、それができないのはなぜだろうか。
きっと私は怖いんだと思う。久保田に好きではないことを伝えてしまえば、私とこいつは2度と悪友には戻れない。
振られた男と振った女。いくら互いが気にしないとは言ってもその事実は変わらない。
それに久保田は私に明確な答えを求めようとはせず、意識しろとしか言っていない。
まだ答えを出すなと言われているような気がしてならなかった。
悶々とそんなことを考えていると、ものすごい勢いで眉間に何かが突き刺さった。
「シワ」
「いたい…!」
「あ?痛くしてんだよ馬鹿か」
「眉間のシワなんかあんたの方がよってんじゃん!」
「だからなんだよ」
「いちいちなんなの…!」
「飯屋見つけたから行こうぜ」
そういった久保田は、私が付いてきているか否かなんてことは気にした様子もなく自分の赴くままに足を進める。
このまま置いて帰ることもできたが、お腹は空いたしパスタも食べたいので悔しいがついていくしかない。
小走りで久保田の背中を追いかけて、仕返しだと言わんばかり腰のあたりに思い切り拳を入れたら、久保田はろくに確認もしないままに私のお尻にわりと強めのタイキックを喰らわせた。