透明がきらめく



 そう、なぜ私なのか。
 そんな質問を久保田に投げかけると、久保田は不機嫌と言ったように眉間にシワを寄せる。

 久保田晃という男は死ぬほどモテる。
 背が高く、成績も良く、運動もできる。
 清潔感もあり、良い匂いがするともっぱらの噂。
 しかもこの春、顔が良いのを良い事に美容室のオモチャにされておしゃれなツーブロックになって帰ってきて以来、さらに女子人気が爆上がりした。
 黙ってさえいれば、少し釣り上がった涼しげな二重にすっと通った鼻筋が綺麗な正統派イケメン。

 だが、残念なことにいつも不機嫌な久保田は顔が怖い。
 ドーバー海溝よりも深い眉間の皺に、にこりともしない愛想のない態度。言葉は粗暴で雑。そもそも私のことを女だと認識していた事実にひっくり返りそうだ。

 そんな久保田に話しかける人間は少ない。女子は特に。
 カッコいいがとっつきにくい。いつの間にやら久保田は学校の高嶺の花と化した。
 そんな私はマネージャーということもあって、確かに久保田と話したりする機会は多い。
 だとしても。そうだとしても。


「だだだ、だって!タカハシさん!タカハシさんは!?」
「あ?可愛いっつっただけだろ」
「ほら!私のこと可愛いって言ったこと無いじゃん!」
「お前自分のことタカハシより可愛いと思ってんの」
「違うそうじゃない!!!!」


 床に這いつくばりながら叫ぶ私に、それを見下しながら受け答えをする久保田。絵面からしてどう考えてもおかしい。

 だってだって。そんな押し問答が数分続くと私の息も上がって来て、久保田の額に血管が浮き出て来た気がする。
 床に這いつくばる私に呆れた久保田は私の質問に受け答えるのをやめ、ボールケースを転がしながら体育館倉庫の外にでて行ってしまった。

 しばらくすると、静かだった体育館からボールの弾む音と、ボールがネットをくぐる音が聞こえて来た。

 嵐が去った後のようだ。
 乱れた呼吸を整えるようにたくさん空気を吸い込むと、膝が少しズキズキと痛む。垂れて来た血を洗うだけのTシャツの裾で拭って立ち上がり、今自分の見に起こった出来事を整理しようと立ち上がる。

 体育館倉庫の隙間から少し顔を出してもくもくとシューティングをする久保田を盗み見る。
 するとものすごく不機嫌な顔をした久保田が私を見るや否や、大きなため息を吐き出した。

 数分前に好きと言った人物に対する態度がこれなのか?
あいつ、私のことを好きだなんて嘘なのでは???
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