透明がきらめく
1.宣戦布告と開幕宣言
不本意な進展
「おはよう」
「………お、おはよ……」
「挙動不審かよ……」
次の日の朝、部室と体育館の鍵を開けるために学校に向かえば、部室の扉の前でしゃがみ込む久保田がいた。
しまった忘れていた。そう思うにも手遅れであった。
こいつは傍から見たら何に関してもやる気がなさそうに見えるが、部でも一二を争うほどのバスケ馬鹿だ。
いや嘘。突き抜けたバスケ馬鹿。
久保田は、毎朝誰よりも早くきて体育館が空くのを待っている。一回鍵を渡したのだが、あまりに夜遅くまで帰らないものだから部長に取り上げられた過去がある。
だから久保田のために、部長の他に鍵を持っているマネージャーの私が鍵を開ける時間を早めたのだ。こんなアホみたいに早い時間に来るのは、私と久保田の二人だけである。
いつもの癖で来てしまった。
何時もなら何かしら会話はあるのだが、昨日の今日となれば楽しく会話なんて出来るはずも無い。
結局昨日はうまく切り抜けてきたが、今日はさらに気まずさが突き抜けている。無言のまま体育館の鍵を開けてやると、低血圧の久保田は目頭を何回か抑えてから立ち上がり、ガラガラと酷い音を立てて体育館の中に消えた。
いきなり色気もへったくれも無い場所で告白して来て、馬鹿扱いされて、おまけに足を引っ掛けられて膝を擦りむいたのに、なんで私の方が罪悪感を覚えなきゃいけないんだ。
少しだけ腹が立って、部室前に転がっていた石ころをえいと部室棟に向かって蹴り上げた。