透明がきらめく
その後不機嫌な久保田とは体育館で否が応でも鉢合わせたわけだが、何事もなかったかのように私の横をすり抜けてバッシュの紐を締め始めた。
いつもならばシューティングを手伝えだとかコーンを出して来いだとかを言いつけるくせに、まるで私なんて見えていないんじゃないかと思うほど完全スルー。
朝練で倉庫から自分でコーンを引っ張り出してくる久保田の姿を始めて見た気がする。
普段はある程度朝練の準備を終えたら、練習が始まるまでは久保田の自主練に付き合うのだが、それが無いためとても手持ち無沙汰である。
体育館の時計を何度確認しても、練習が始まるまでは一時間以上ある。
いつもならやるべき仕事は山のようにあるのだが、今日に限って臭いビブスは洗濯済み。すぐに汚れるボトルも塩素で綺麗にしたばかりだった。
かといって今更久保田に何か話しかける気にもなれなかった私は、部活が始まるまで体育館の外にしゃがみこんで誰かが来るのを黙って待った。
何もせずにただバッシュが擦れて上がる高い独特の音とボールの音だけを聞いているのはわりと苦痛だったが、三十分程度待てば久保田に並ぶバスケ大好きの部長のシュウ先輩がひょっこりとバッシュとボトル片手に現れた。
地獄に仏とはまさにこのことだ。
「おーす、早いな!相変わらず」
「おはようございます!!」
私はバッシュを履こうとする部長のシュウ先輩の腕を無理やり引っ張り、体育館の外に連れ出した。
状況が飲み込めないと言った様子がだが、私が聞いてくださいと声を上げると、頭にはてなを浮かべたまま頷いた。そして昨日何が起こったのかをなるべく鮮明に話した。
私の混乱と動揺を理解して欲しい気持ちもあったが、どちらかというと驚きを共有したいという思いの方が強かったかもしれない。
しかし最初は楽しそうに聞いていたシュウ先輩は、話の中盤あたりからどんどん難しい顔になって行って、終いには昨日の久保田のような顔になってしまった。
「何お前」
「え?」
「アキがお前のこと好きって知らなかったの?」
「…………え?」
「マジで言ってる?今時モテないぞ、そういうの」
そう言うとシュウ先輩は、私の肩を数回叩いてから、バッシュの紐を締めて久保田のシューティングに混ざってしまった。
青ざめた。