透明がきらめく
久保田のとんでもないスピードにつられて走ったかと思えば、教室のドアの前で思いっきり腕を引っ張られてそのまま教室の中に放り込まれた。
勢いがつていたのでよろけながら体制を整えると、ちょうど出席番号が私の一つ前の鈴原くんが呼ばれているところだった。
「瀬名ー…お前荷物どうしたー?」
「ここにあります先生」
「なんで久保田が持ってんだ」
長い足でスタスタとあっという間に私を追い抜き、何事もなかったかのように私の机に荷物を置くと、久保田は自分の席についてしまった。
久保田に掴まれていた手のひらがまたじんじんと痛む。
昨日から今日までずっと無視を決め込んでいたくせにいきなりなんなんだ。
「透子、どうしたの?」
「あ、うん、なんでも無い…」
近くの友達に声をかけられて我に返る。
これではまるで私が久保田を意識しているみたいだ。
そんなことはあってたまるか。
私は頭の中に浮かんださっきの久保田の表情をかき消すように、いつも3倍不機嫌なまるで鬼面のような久保田の顔を必死で思い出した。
「透子ちゃん、久保田と手ェ繋いでなかった?」
「繋いでたっていうか掴まれてたっていうか…」
「何付き合ってんの?」
「前向こうよ鈴原くん」
先生や友達に促されて、ようやく自分の席につくと、待ち構えていましたと言わんばかり爽やかな好青年スマイルを浮かべ鈴原くんが話しかけて来た。
ちなみに彼は興味を示したものはとことん追いかけ、興味の無いものには1ミリたりとも触れないといったような極端な性格をしている。
もっといえば興味を示したものには愉快犯かと疑いたくなるほど引っ掻き回すとんでもない性格をしているのだ。
きっと今の私は鈴原くんにとって絶好のおもちゃ程度にしか思われて居ないのだろう。
そんなものにいちいち捕まってられるか、と彼の頬を両手で挟んで無理やり前を向かせる。
ちぇーとわざとらしい声を上げるあたりは流石としか言いようが無いけれど。
しかし私が久保田に手を掴まれていたのを見ていたのは彼だけではなかった。
HRが終わって観れば、いつも一緒に過ごしている友達以外にも席が隣になった時くらいしか話をしない子までぞろぞろと手を繋いでいたことについて確かめようと集まって来た。
しまったやられた。
そう思い久保田の方に目を向ければ、してやったりと気持ち悪いくらい清々しい笑顔を浮かべた久保田がいた。